残業代請求の弁護士コラム

裁量労働制でも残業代はもらえる?計算方法や請求の手順について

2015年12月15日
  • 労働問題
  • 裁量労働制

裁量労働制でも残業代はもらえる?計算方法や請求の手順について

1日8時間、週40時間を超えて働いた場合に、残業代がもらえるということは多くの方がご存知かと思います。しかし、職種や業務によっては、実労働時間を把握するのが困難な場合もあります。その典型が、裁量労働制です。
今回は、裁量労働制のもとで働いている方でも残業代がもらえるのかどうかについて説明していきます。ご参考になれば幸いです。
なお、ここでいう「裁量労働制」とは、労働基準法38条の3、38条の4に規定する制度を指すこととします。

1、裁量労働制の場合、残業代を請求できる?

そもそも裁量労働制とは簡単に言えば、実際働いた時間に関係なく、事前に決めた時間(これを「みなし労働時間」といいます)働いたと「みなす」勤務体系です。

例えば、みなし労働時間を1日8時間とした場合には、労働時間が5時間でも、10時間でも、8時間労働したこととして扱われます。
もっとも、みなし労働時間を1日8時間以内に設定した場合には、残業代は発生しませんが、みなし労働時間が8時間を超えるように設定した場合には、8時間を超える分の残業代が発生することになります。
例えば、みなし労働時間を9時間とした場合には、1時間分の残業手当が必要になります。

「裁量労働制だから残業代はない」などと、会社側から言われた場合、会社側の言い分を信じる前に、自分の会社ではみなし労働時間は何時間に設定されているのか、本当に自分の労働時間はみなし労働時間内に収まっているのか、確認してみましょう。

裁量労働制を採るには、書面による労使協定が必要となりますので、みなし労働時間が何時間となっているのかは、労使協定を確認すればよいでしょう。

その他にも、深夜勤務(22時~5時まで)や休日に労働した場合にも、残業代が発生することになります。

2、裁量労働制の場合の労働時間の計算方法

次に、裁量労働制の残業代の計算方法について解説します。

ですが、まずは「ざっくり、いくらくらい残業代が貰えるかを知りたい」という方も多いでしょう。そのような場合は、「残業代チェッカー」でおおよその金額を知ることができます。
最短30秒で結果がでますので、ぜひお試しください。
※上記の残業代チェッカーは、おおよその残業代を示すための簡易チェッカーです。ご注意ください
それでは、以下で具体的な計算方法について解説します。
一般的に、具体的な残業代は、以下の計算式で算出することができます。

  • 「労働者の1時間当たりの賃金」×「残業時間数」×「割増率」


先ほどご説明したように、裁量労働制で残業代が発生するのは、
  1. ①みなし労働時間が8時間を超えるように設定した場合
  2. ②深夜時間帯に労働した場合
  3. ③休日に労働した場合


です。 それぞれの詳しい意味については以下をご参考ください。

  1. (1)労働者の「1時間当たりの賃金」の算定

    ●月給制の場合
    一般的には、賃金を「月平均所定労働時間数」で割って、「1時間当たりの賃金」を算定します。

    なお、「月平均所定労働時間数」は下記の算定式で算出します。

    • 「月平均所定労働時間数」=(365日(うるう年の場合は366日)-1年間の休日数)×1日の所定労働時間数÷12

  2. (2)残業時間数

    多くの企業では、1日8時間、週40時間の所定労働時間を採用しているところが多いと思われます。

    その場合の実際の残業時間は、

    • 1日8時間を超えた労働時間
    • 週40時間を超えた労働時間(1日8時間を超えた労働時間を除く)


    の合計となります。

    なお、ここでいう「労働時間」とは、現実に労働した時間を言いますので、例えば遅刻や早退等によって労働していなかった時間はもちろんのこと、有給などによって労働しなかった時間は「労働時間」には含まれませんので注意してください。

    また、裁量労働制の場合の残業時間の計算にあたっては、以下の点を注意してください。

    ①1日の労働時間
    裁量労働制の場合、「1、裁量労働制の場合、残業代を請求できる?」でも説明したように、実際に働いた時間に関係なく、事前に決めた時間働いたとみなされることになります。
    そして、みなし労働時間が1日8時間を超えていた場合には、その時間が残業時間となります。例えば所定労働時間が1日8時間でみなし労働時間が1日9時間とされていた場合、1時間分が残業時間となります。

    ②深夜時間帯の労働
    深夜勤務(22時~5時)の時間帯に働いた場合、深夜割増分は裁量労働制によって除外されないため、この時間帯で働いた場合は、その時間数に応じた深夜割増分の支払が必要となります。

    ③法定休日以外の所定休日の労働
    所定休日に労働した場合、週の労働時間(すでに割増賃金の対象とした時間を除く)との合計が法定労働時間である40時間以内の部分は法内残業として通常の賃金を、40時間を超える部分は法外残業として割増賃金を支払う必要があります。

    ④法定休日の労働
    法定休日に働いた場合には、裁量労働制の適用はないため、働いた時間がそのまま残業時間となります。

  3. (3)割増率

    割増率は以下の表の通りです。

    労働の種類 賃金割増率
    時間外労働(法定労働時間を超えた場合) 25%割増
    時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)
    ※適用猶予の場合有
    ※代替休暇取得の場合は25%の割増無
    50%割増
    深夜労働
    (午後10時から午前5時までに労働した場合)
    25%割増
    休日労働(法定休日に労働した場合) 35%割増
    時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 50%割増
    時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)+深夜労働 75%割増
    休日労働+深夜労働 60%割増

  4. (4)計算事例

    例えば、

    月~金:9時~20時(みなし労働時間が9時間)
    土(所定休日):12時~23時
    日(法定休日):12時~22時
    時給が1,500円、所定労働時間8時間、各日とも通常の時間に1時間休憩

    の場合で計算してみましょう。

    ①時間外労働時間の残業代計算
    ●月曜日から金曜日の労働
    月曜日から金曜日までは合計50時間(毎日の実労働時間は10時間)働いていますが、みなし労働時間が1日につき9時間であるため、平日は毎日1時間分の時間外労働をしたとみなされることになります。
    月曜日から金曜日で5時間分の時間外労働があることになります。

    ●土曜日の労働
    土曜日は所定休日です。他の労働時間と合計した週の労働時間が法定労働時間である40時間を超える場合には、超えた分の時間が時間外労働時間となります。
    月曜日から金曜日までですでに40時間を超えて働いているので、土曜日の労働は全て時間外労働となります。
    すなわち、10時間が時間外労働になります。

    ●時間外割増賃金の計算
    以上から、本事例での時間外割増賃金は、
    • 1500円×1.25×15時間(月曜日から金曜日まで及び土曜日の時間外労働時間)=28,125円


    となります。

    ②深夜時間帯の残業代計算
    22時以降に働いていたのは、土曜日の1時間ですから、ここでの深夜割増分は、
    • 1,500円×0.25×1時間=375円


    となります。

    ③法定休日の残業代計算
    法定休日である日曜日には、9時間働いていますので、ここでの残業代は、
    • 1,500円×1.35×9時間=18,225円


    となります。

3、残業代の請求方法

残業代は以下の流れで請求することになります。

  1. (1)証拠を揃える

    残業代を請求しようとする場合には、どのような証拠を集めたら良いでしょうか。
    残業代の請求にあたっては、大きく分けて以下の4種類の証拠が必要になります。

    ①残業していたことを証明する証拠
    例えば、

    • タイムカードや毎日の勤務時間表のコピー
    • 出勤簿のコピー


    などです。

    ②残業代の計算にあたり必要な証拠
    例えば、
    • 雇用契約書
    • 就業規則


    などです。

    ③会社が十分な給与を支払っていなかったことを証明する証拠
    給与明細などが必要になります。

    ④その他労働審判を利用する場合に必要な資料
    会社の登記簿謄本が必要になります。

  2. (2)残業代を計算する

    2、裁量労働制の場合の労働時間の計算方法」で説明した通りです。

  3. (3)会社との交渉方法

    ①まずは話し合いで交渉!
    実際の残業代の金額が出たら、それをもとに残業代を任意に支払ってくれるように、会社側と話し合いましょう。
    コンプライアンスを重視している会社であれば、おそらくその時点で未払いの残業代を支払ってくれるはずです。
    しかし、コンプライアンスを無視しているようないわゆる「ブラック企業」の場合には、話し合いすらまともに応じてくれないことも多いです。

    ②話し合いが上手くいかないようであれば内容証明郵便を送る!
    会社側が任意の交渉に応じてくれないようであれば、今度は会社に以下の内容を記載した内容証明郵便(郵便局が通知した内容を証明してくれる郵便のことです。)を送りましょう。

    1. 相手方の会社の名前・住所
    2. あなたの名前・住所
    3. 雇用契約について
    4. 残業の事実と残業代未払いの事実について
    5. 「残業の事実と残業代未払いの事実」を証明する証拠があること
    6. 残業代の金額(場合によっては別送で残業代計算書を送ってもよいです。)
    7. 請求金額と支払い期限
    8. 支払い口座


    中小企業であまり法律に関心を持っていない会社の場合には、内容証明郵便が公的な書面の体裁を備えていることから、未払い残業代を支払わないといけないという風に思って、残業代を支払ってくれる可能性もあります。
    ただし、内容証明郵便は、法律的にはあくまで普通の書面であるために、内容証明郵便をもらい慣れてしまっている会社などは内容証明郵便を出しても支払ってくれない可能性が高いです。

    しかし、そのような場合でも、内容証明郵便を送ることで「時効の進行を止める」という効果はあります。
    残業代の時効は2年間で、2年前のものまでしか請求できません。そのため、時効によって請求できる残業代の金額が減ることを避ける意味で、内容証明郵便を送ることは重要です。

    なお、弁護士に依頼し、弁護士名で内容証明郵便を送付することで、会社側の姿勢が変わることもあります。

  4. (4)交渉が決裂してしまった場合の方法

    会社との任意の交渉で残業代を回収することができなかった場合には、以下の手続きをとって残業代の回収を図ることになります。

    ①労働審判
    労働審判とは、解雇や給料の不払いなど、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルをそのトラブルの実情を踏まえて、迅速適正かつ実効的に解決することを目的として、平成18年に創設された手続きのことです。
    訴訟(裁判)と同じく裁判所で行われる手続きです。期日は3回以内とされており、訴訟に比べて、早期解決が期待できる手続です。原則3回で終了のため、労働審判のうち約8割程度が3ヶ月以内決着がつきます。

    話し合いにより、和解で終わることも多いですが、和解に至らなければ、「労働審判」がなされることとなります。

    そして、「労働審判」は、確定すれば判決と同一の効力があり、差押え(強制的に預金などの会社の財産を没収し、そこから残業代を支払ってもらうこと)をすることも可能になります。

    もっとも、労働審判の結果にどちらかが納得いかなかった場合に、確定前に労働審判に対する当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は結局、訴訟に移行することになってしまいます。

    ②訴訟
    裁判所に民事訴訟を提起して残業代を回収する方法もあります。
    判決が確定しても企業側が支払をしない場合には、会社の財産に対して強制執行(差押え)をすることにより、未払賃金を回収することができます。

まとめ

今回は、裁量労働制の場合でも残業代がもらえる場合について説明してきましたがいかがだったでしょうか。
今回の話が裁量労働制で働いている方で残業代がもらえるかどうかについて悩まれている方の参考になれば幸いです。

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