みなし残業代制(固定残業代制)を導入している会社は数多くあります。
労働者にとってみなし残業手当(固定残業代)は、残業が少ない月にも残業代がもらえるというメリットがありますが、会社が正しい運用を行っていない場合、本来はもらえるべき残業代がもらえないということもあります。
今回は、みなし残業代制であっても、残業代を請求できるケースや請求方法について解説します。
みなし残業手当とは、例えば「20時間分の残業代を含む」というように設定され、実際に20時間残業していなくても支払われる手当のことをいいます。
なお、みなし残業手当という言葉は法律的に正式な用語ではありません。世間では、固定残業代や定額残業代と言われることもあります。
先の例のように、例えば「20時間分の残業代を含む」としてみなし残業手当が支払われていた場合には、実際の残業時間が20時間を超えない限り、この手当てとは別に残業代が支払われることはありません。
では、みなし残業手当はどのような条件であれば適法となるのか見ていきます。
まず、通常の労働時間の賃金にあたる基本給の部分と、時間外の割増賃金にあたる部分が明確に区別されていることが必要です。
これは、固定・定額部分が妥当な金額なのか判断するためです。
みなし残業手当も労働条件ですので、みなし残業手当が労働条件になることがあらかじめ就業規則に記載されて知らされているか、個別の労働契約に明記されていることが必要です。
では、みなし残業手当をもらっていても別途残業代を請求することができるのでしょうか。
これは、みなし残業手当が想定している残業時間を超えて働いたかどうかで、別途残業代をもらえるかどうかが異なります。
みなし残業手当が、例えば「20時間分の残業代を含む」とされている場合、月の残業時間が20時間以内の場合には、残業代を会社に請求することはできません。
反対に、20時間を超えた場合、例えば、21時間ならば1時間分、35時間であれば15時間分の残業代を別途会社に請求することができます。
未払い残業代は以下の流れで請求することになります。
未払い残業代を請求しようとする場合には、どのような証拠を集めたら良いでしょうか。
未払い残業代の請求にあたっては、大きく分けて以下の4つの証拠が必要になります。
①残業していたことを証明する証拠
例えば、
などです。
②残業代の計算にあたり必要な証拠
例えば、
などです。
未払い残業代は、以下の計算式で算出することができます。
それぞれの詳しい意味については以下をご参考ください。
①労働者の「1時間当たりの賃金」の算定
なお、「月平均所定労働時間数」は下記の算定式で算出します。
②残業時間の計算方法
多くの会社では、1日8時間、週40時間を所定労働時間としているところが多いと思われます。
その場合の実際の残業時間は、
の合計となります。
なお、ここでいう「労働時間」とは、現実に労働した時間を言います。
例えば遅刻や早退等によって労働していなかった時間はもちろんのこと、有給などによって労働しなかった時間は「労働時間」には含まれないため注意が必要です。
③みなし残業手当(固定残業代)に含まれている残業時間を超えて残業した場合の残業代の計算方法
例えば、残業手当が20時間分の残業代を含んでいた場合で、かつ時給が上記計算式にあてはめて計算した結果が1,500円だったとします。
この場合で、残業時間が合計30時間だった場合には、
すなわち、18750円がみなし残業手当以外に別途残業代を請求できる金額になります。
④割増率
法律上、割増率は以下の表の通りです。
労働の種類 | 賃金割増率 |
---|---|
時間外労働(法定労働時間を超えた場合) | 25%割増 |
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合) ※代替休暇取得の場合は25%の割増無 |
50%割増 |
深夜労働(午後10時から午前5時までに労働した場合) | 25%割増 |
休日労働(法定休日に労働した場合) | 35%割増 |
時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 | 50%割増 |
時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)+深夜労働 | 75%割増 |
休日労働+深夜労働 | 60%割増 |
実際の未払い残業代を算出できたら、それをもとに未払い残業代を任意に支払ってくれるように、会社側と話し合いましょう。
コンプライアンスを重視している会社であれば、おそらくこの時点で未払いの残業代を支払ってくれるはずです。
交渉の際には、会社に以下の内容を記載した内容証明郵便(郵便局が通知した内容を証明してくれる郵便のことです。)を送ることも有益です。
内容証明郵便には一定のインパクトがあるでしょうし、それ以外にも内容証明郵便を送ることで「時効の進行を止める」という効果が得られます。
労働基準法では、未払い賃金請求の時効は2年と定められています。しかし内容証明郵便を利用して請求書を送っておけば半年間、この時効を止めることができます。
なお、交渉段階から弁護士に相談することをおすすめします。
ご自身との話合いに応じない会社も、弁護士から内容証明郵便が届くと、法的にしっかりとした対応をしなければならないと考え、残業代を回収できる可能性は高まります。
会社との任意の交渉で残業代を回収することができなかった場合には、以下の手続きをとって未払い残業代の回収を図ることになります。
①労働審判
労働審判とは、解雇や給料の不払いなど事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルをそのトラブルの実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的として、平成18年に創設された手続きのことです。
訴訟(裁判)と同じく裁判所で行われる手続きです。期日は3回以内とされており、訴訟に比べて、早期解決が期待できる手続きです。
そして「労働審判」は、裁判所の判断であるため、確定すれば判決と同一の効力があり、差押え(強制的に会社の財産を没収し、そこから残業代を支払ってもらうこと)も可能になります。
もっとも、審判の結果にどちらかが納得いかなかった場合、審判に対する当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は結局、訴訟に移行することになってしまいます。
②訴訟
労働審判をしても解決できなかった場合には、裁判所に民事訴訟を提起して残業代を回収することになります。
今回はみなし残業代制(固定残業代制)が導入されていても未払い残業代が発生するケースや、残業代の請求をする場合の証拠、請求方法について解説しました。未払い残業代を請求することは労働者の正当な権利です。
しかし、個人で会社と交渉することは容易ではありません。
そのような場合は、弁護士に相談することが得策です。
弁護士は依頼者に代わって会社と交渉します。個人が相手では話合いにすら応じなかった会社も、弁護士が交渉を申し出ることで、法的にしっかりとした対応をしなければならないという心理的効果を与えることができ、交渉が前に進んでいきます。
現在、みなし残業で働いており、「未払い残業代を請求したい」「残業代を請求したいが証拠がない」といった悩みをお持ちの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。弁護士が親身になってお話をうかがいます。
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